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「私は貝になりたい」を見て考えたこと① ~矢野さんとハーグ条約~

以前に見た、「私は貝になりたい」について私が考えたことを書いていきます。

まず、タイトルにある「矢野さん」ですが、これは中居正広さんの演じる「清水豊松」の上官(中将)です。

この人は「豊松」と同じく、軍事裁判で死刑になります。

「矢野さん」は米軍捕虜の殺害を命じた者、「豊松」は殺害を実行したもの(実際は右腕に切り傷を負わせたのみ)として死刑にされます。

ちなみに、「豊松」は、上等兵(位が上の兵隊)に銃を突きつけられ、脅されながら米軍に銃剣を突きつけました。

本来なら、死刑はありえないのですが、作品中では、裁判の心証が悪いことが死刑になる原因となります。

ここが、“私の考えたポイントその1”です!

心証を悪くした原因は、「上官の命令は天皇の命令」という論理を主張したことです。これは、この時代の教育が、軍国主義的で、上官の命令に絶対服従することが真理だと教えられていたのです。

それを主張した結果、裁判所に「自分の意思で捕虜を殺害した」と判断され、死刑の判決を受けます。

一方、「矢野さん」は捕虜に対して「適切な処置を施せ」と言った。と自分を弁護しています。要するに言い逃れをしたのです。

この時代の日本は「鬼畜米兵」など、捕虜は殺害するべしということを徹底的に教え込まれています。

つまり、部下にとって「適切な処置」=「殺害」ということになるのです。

「矢野さん」はこうなることをわかった上で、「適切な処置を施せ」と命じたのではないか、と私は考えています。

 

次に、気になったのは、「矢野さん」が死刑を執行される直前に言った言葉の内容です。

「矢野さん」の言った内容は要約すると次のようなものです。

①アメリカは日本への空襲などで、多くの一般民衆を殺し、民家を破壊しつくした。これは、ハーグ条約違反である。日本軍と同じく、軍事裁判にかけられるべきである。
②私の曖昧な指示によって、部下に刑が科せられている。捕虜殺害はすべて私の責任だから、部下の罪は免除してほしい。

まず、①についてですが、この言葉を聞いたときは、「すげえ!」と思いました。

これは、現在も問題として挙げられているものですアメリカの軍人の中には、「空襲したのは民間人、民家ではない。あれらはすべて軍事工場。日本人は自宅で兵器の部品を作っている」と主張しているのものもいますが…。(日本が中国や朝鮮半島で行なったことについても似たようなことがありますね。)

しかし、こことは違うところに“私の考えるポイントその2”があります!

キーワードはハーグ条約です。

ハーグ条約とは、簡単に言うと、「人道に配慮した国際的な戦争のルール」のことです

主な内容は
①戦闘に従事する権利を持つものの範囲(交戦資格)
②禁止される兵器、禁止される戦争方法(無差別攻撃、背信行為など)
③捕虜を人道的に取り扱うこと

「豊松」「矢野さん」は③に違反したため、死刑になっています。また、捕虜に関しては、「国際赤十字条約」や「ジュネーブ条約」でも定められています。

それでは、「矢野さん」について、作品を逆から見て整理していきましょう。

①アメリカを「ハーグ条約違反」と言った。
⇒つまり、ハーグ条約の内容を知っていた、ということになります。

②軍事裁判で「適切な処置」をしたと言い逃れをしている。
⇒ハーグ条約を知っていたため、捕虜殺害を命じたとなると重罪になることを知っていた、ということになります。

③捕虜に対して「適切な処置」を命じた
ハーグ条約違反から逃れるため、ということになります。

 

ここで、「豊松」「矢野さん」の軍事裁判を整理しましょう。

「豊松」ハーグ条約を知らずに、裁判でまずい発言(「上官の命令は天皇の命令」など)をしてしまったため、裁判での心証を悪くし、死刑。

「矢野さん」ハーグ条約を知っているため、事前に言い逃れられるような行動をしていた。そして、裁判で弁解していた。(結果は死刑)

 

戦時中、上の位の軍部は、ハーグ条約のような国際人道法も、戦争に勝てる可能性が低いことも知っていました。

しかし、戦争をした。自分たちの犠牲を最小限に、一般民衆を犠牲にして。

戦争責任を逃れるような措置もとっていた、ということです。

これは、「矢野さん」に限ったことではありません。作品中にも、こういう戦争責任を逃れるための行ないをしている上官が登場しています。

 

今回、「矢野さん」を出したのは、矢野さんが人間的な感覚を持っていたと感じるからです。

空襲で焼け野原になった街を見て涙したり、刑務所で「豊松」に謝罪したり、アメリカ軍に部下の無罪を訴えたりしています。

このような、人間的な感覚を持っていても、あのような行為を選択してしまう、もしくはしなければいけないのが「戦争」というものではないでしょうか。

戦争は、人間が作り出したものです。人間の作り出す社会問題が原因となって起きています。

そういう戦争の原因となる社会問題などを作らない社会をつくれば平和になる。

そういう社会の担い手になるには…、何を学べばいいのか。

これは、私の卒論のテーマです。

この映画を見て本当にいい勉強になりました。

また、その2、その3、と「私は貝になりたい」を見て考えたことを書いていきます。

 

長い文章になりましたが、読んでくださり、ありがとうございました。

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コメント

はじめまして。
私もこの映画を見た時、矢野中将の「適切な処置を施せ」に腑に落ちないものを感じていました。
こちらのブログを興味深く拝見しました。
有能であるはずの矢野中将の指令の出し方や、裁判での証言と、
処刑前の毅然とした態度が、私にとって一致しなかったのです。
「責任は全て自分にある」と主張しても説得力に欠けると思っていたのですが、この記事を読んでスッキリしました。
また、この続きを楽しみにしています。では、失礼します。

投稿: ちえ | 2009年1月 8日 (木) 10時13分

>ちえさんへ

はじめまして。ぐっちゃぶです。
コメントありがとうございます。
私のような未熟なものが考えたことが人の役に立つことが出来、嬉しく思います。
もちろん、このことに関しては他の考えもあると思いますので、そちらも参考にしていただければいいかと思います。

それにしても、「腑に落ちないもの」を感じるってすごいですね。目の付け所が鋭いのですね。
私なんか、勉強していなかったら全く気付きませんでした。

今後も、考えたことを「ぼちぼち」書いていきますが、よろしくお願いします。

投稿: ぐっちゃぶ | 2009年1月 8日 (木) 17時47分

>軍国主義的で、上官の命令に絶対服従

初年兵が上官の命令に対する絶対服従を叩き込まれるのは、たとえ民主国家の軍隊においても同じ事です。
フルメタル・ジャケットという、ベトナム戦争当時の映画を見た事があります。この映画における新兵訓練の様子が事実に即しているのなら、米国軍が日本軍に比べて人道的だったなんてとても思えません。

>日本は「鬼畜米兵」など、捕虜は殺害するべしということを徹底的に教え込まれ

そんな事実はありません。
史実においてもB29の搭乗員が処刑されていますが、理由は無差別爆撃による民間人の殺害という戦争犯罪を犯したからであって、同じB29の搭乗員でも、軍事施設を爆撃して日本軍に捕縛された兵士達は捕虜としての扱いを受け、戦後帰国しています。

このドラマの矢野中将は国際法についてわかっていません。このドラマのシチュエーションで米国兵士を処刑するのは、まさしく「適切な処置」なのに「間違い」だと言ってしまったのですから。
ジュネーブ条約における捕虜としての権利は、国際法を順守しない者に対しては適用されない、と同条約に明記されているのです。

本当に罪が問われるべきは、戦争中に民間人を攻撃し、戦後この様な不当な裁判を行った米軍及び政府にあると思います。

投稿: A.Na | 2009年1月16日 (金) 00時25分

>ANaさん
コメントありがとうございます。
知らなかったことを知ることができ、勉強になります。また、自分の文章の未熟さを改めて考えるきっかけにもなりました。

アメリカの責任を問うということですが、私もそう思います。
軍事裁判そのものが戦勝国のためのものだったという批判をする主張もありますし。そのとおりだと思います。

投稿: ぐっちゃぶ | 2009年1月16日 (金) 21時53分

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